
この記事の3つのポイント
- 給料を上げても職場の空気が変わらないのは、感情の論理が動いていないから
- 会社には「能率の論理」(公式組織)と「感情の論理」(非公式組織)が同居している
- 経営者の仕事は、両方を扱う技術を持ち、非公式組織の向きを整えること
頑張った分だけ給料が増える仕組みを入れたのに、工員たちは動かなかった。
労働条件をわざと悪くしたのに、生産性は伸び続けた。
チーム全員の報酬が上がる出来高給の下で、全員そろってのサボタージュが起きた。
経済合理性で考えれば、どれも「ありえない」話です。しかし3つとも、1924年から1932年にかけて米シカゴのウェスタン・エレクトリック社『ホーソン工場』を中心に行われた一連の現場研究、通称「ホーソン実験」で実際に観察された記録でした。「人はお金と命令で動く機械」という当時の常識は、この3つの逆説によって決定的に覆されることになります。
そして、ここで発見された構造は100年経っても古びていません。現代日本の中小企業の現場で、同じ逆説が形を変えて繰り返されています。本記事では、ホーソン実験が暴いた「常識の裏側」を一つずつ解きほぐしながら、現代の組織づくりに翻訳していきます。
なぜ、給料を上げても休憩を増やしても職場の空気は重いままなのか
賞与を上げ、有給も取りやすくした。それでも職場の空気は重いまま。新しい施策を打っても現場からは反応がなく、ベテランの一角はなんとなく仕事を流している。手は打っているのに、何かが届いていない。
この種の問題は、給料や労働条件だけを見ていても解決しません。「最終的には待遇で解決できるはず」「研修を入れれば変わるはず」と考えて手を打っても、空振りが続くことがあります。なぜでしょうか。
会社の中に、目に見える組織と目に見えない組織の2つが同居しているからです。経営者が施策を打ち込んでいるのは前者だけで、社員が実際に動いているのは後者の力学。この構造を見ないまま投資を続けても、職場の空気は変わりません。
冒頭に並べた3つの逆説は、すべてこの「目に見えない組織」の力学が引き起こしたものでした。一つずつ見ていきましょう。
ホーソン実験以前、人はどう見られていたか|テイラーの「人は機械」という前提
ホーソン実験の意義を理解するには、その前提となっていたテイラーの科学的管理法を押さえておく必要があります。
20世紀初頭のアメリカ。フレデリック・テイラーが提唱した科学的管理法は、世界の工場経営の主流でした。前提はシンプルです。
「人間は機械であり、お金で動く」
経済学で言う経済人(エコノミックマン)モデルの典型です。人は感情を持たない受け身の存在で、報酬と命令にだけ反応する。この前提のもと、ストップウォッチで動作と時間を測り、最適な作業手順を「課業(タスク)」として確定し、達成すれば割増の出来高給を支払い、達成できなければ職場を変えさせる。これがテイラー流のマネジメントでした。
1920年代になると、その延長線上で「人間という機械の耐久性」を測る研究が盛んになります。休憩を何回入れたら能率が上がるか。照明の明るさで作業効率はどう変わるか。室温は何度が最適か。人を物理的な条件への反応器として扱う、いまから見ればずいぶん冷たい研究テーマです。
ところが、現場のデータがこの前提を裏切り始めます。人は、機械のようには動かなかったのです。ここからホーソン実験の物語が始まります。
フィラデルフィア紡績工場「圧力から解放したら、なぜか生産性が上がった」

最初の予兆は、1920年代初頭のフィラデルフィアの紡績工場で起こりました。
この工場はテイラーの科学的管理法を忠実に実践していました。頑張れば頑張るほど報酬が増える差別出来高給。理論上は工員のやる気が出るはずでした。ところが現場は陰気で、孤独で、会話もない。工員たちは出来高給に反応せず、生産性は低いままでした。
調査に入った研究者たちは「人間機械が疲労しているのだろう」と考え、1日4回の休憩を導入します。生産性は上がりました。仮説は実証されたかに見えました。
話はここで終わりません。休憩を快く思わない監督者が「人間は機械なんだから、休ませる必要はない」と休憩を全廃してしまいます。生産性はわずか1週間で元の悪い水準に逆戻り。慌てた研究者たちは休憩を復活させますが、今度は「課業を達成した人だけ休憩できる」という稼ぎ出し方式に変えてしまい、欠勤を増やしただけで失敗します。最終的に休憩を全員に無条件で保障したとき、生産性は元の水準を超えて伸びていきました。
教科書が省略する真の発見
多くの教科書は、このエピソードを「休憩を入れたら生産性が上がった」という相関で片付けます。実際に生産性を動かしていたのは、休憩そのものではありませんでした。
工員たちをすり減らしていたのは、作業の疲労よりも、監督者に常に見張られ、急かされる毎日のほうだったのです。誰にも取り上げられない休憩が保障されたとき、その張り詰めた関係に風穴が開いた。職場を支配していた緊張がゆるんだことが、数字を動かした。これがこの観察のもう一段深い読み方です。
この構造は現代の中小企業にも通じます。規程の上では認められているのに、使えば睨まれる。そんな制度は、社員から見れば無いのとほとんど同じです。
- 有給休暇はあるが、上司の機嫌で取りやすさが変わる
- 残業免除の制度はあるが、申請すると無言の圧がかかる
- 1on1は設定されているが、実際は説教の場になっている
経営コンサルティングの現場でも、この「紙の上の制度」と「現場の空気」のずれには繰り返し出会います。制度を整えた経営者本人だけが、ずれに気づいていないことも珍しくありません。
リレー組立試験室「6人の女性に『事前相談した』だけで生産性が上がり続けた」

ホーソン実験の本格的な舞台は、シカゴにあったウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場です。1924年から1932年まで、エルトン・メイヨーらハーバード大学の研究者たちが関わり、のちに「人間関係論」と呼ばれる潮流の出発点となる発見を次々と生み出しました。
最も有名なのがリレー組立試験室の実験です。6人の女性作業員を別室に移し、観察者を1人配置。継電器(リレー)の組立作業をしてもらいながら、賃金・休憩・軽食・労働条件といった条件を順番に変えて、生産性の変化を観察しました。
予想は素直なものでした。条件を良くすれば上がり、悪くすれば下がるはずだ、と。結果は奇妙でした。条件を良くしても悪くしても、生産性は上がり続けたのです。意図的に労働条件を切り下げてもなお伸びていく。研究者たちは頭を抱えました。
教科書的な「ホーソン効果」では説明しきれない発見
この現象は、しばしば「観察されているから頑張った(ホーソン効果)」とまとめられます。それも一面ですが、試験室の中で起きていたことをもう一段近くで見ると、別の構図が浮かびます。
観察者の男性は、形式上は作業員の上司にあたる「監督者」でした。ただ、そのふるまいは、彼女たちの知っている監督者像とはかけ離れていました。怒鳴らない。あら探しをせず、記録だけを取る。そして条件を変えるときには、必ず先に6人へ意向を尋ねる。
このとき6人の中で何が起きたか。実験が「やらされるもの」から「自分たちのもの」へ変わっていったのです。決める前に聞いてもらえる。ならばこの実験を成功させたい、あの人の期待に応えたい。そう思って働く6人にとって、条件の良し悪しは、もはや手を抜く理由になりませんでした。彼女たちは試験室の自由な雰囲気のなかで、互いを個性ある一人の人間として認め合う、結びつきの強い集団になっていました。生産性を右肩上がりに押し上げた正体はこれです。
100年前の6人が教えてくれるのは、上司と部下の信頼関係を作るいちばんシンプルな方法が、「決める前にひと声かける」というたった一つの行動だということです。具体的な実践のしかたは、後の「経営者は何から手をつければよいか」で整理します。
バンク配線の14人が示したもの|集団規範は逆向きにも働く

ホーソン実験のもう一つの主要なエピソードが、後半のフェーズで行われたバンク配線作業観察です。
今度は14人の男子作業員のチームを観察します。彼らに適用されていたのは集団出来高給。チーム全員で頑張れば、全員の報酬が上がる仕組みです。経済人モデルの前提に立てば、一致団結して生産性を最大化するはずでした。
現実は逆でした。集団でのサボタージュが起きたのです。チームを支配していたのは、誰も口に出さない4つの暗黙のルールでした。
- 仕事に精を出しすぎるな(出る杭は打たれる)
- 仕事を怠けすぎるな(足を引っ張るな)
- 上役に告げ口をするな(裏切り者になるな)
- 偉ぶるな(仲間内では平等であれ)
この種の暗黙のルールを、専門用語で集団規範(グループ・ノーム)と呼びます。働けば働くほど全員の収入が増えるのに、メンバーは規範のほうに従いました。張り切る作業員が現れると、周りがたしなめてペースを落とさせる。新人もすぐにそのトーンを覚える。会社が用意した報酬の論理よりも、仲間内の感情の論理が優先されたのです。
集団のまとまりは、どちらの向きにも働く
リレー組立試験室の6人も、バンク配線の14人も、集団としての結びつきの強さは共通していました。分かれたのは、その結びつきがどこへ向かっていたかです。
| 集団の暗黙の了解 | 結果 | |
|---|---|---|
| 6人の女性(リレー組立試験室) | 「この実験を成功させたい」 | 条件を下げても生産性が伸び続けた |
| 14人の男性(バンク配線) | 「ほどほどにやれ。目立つな」 | 集団出来高給の下でサボタージュ |
「うちの社員は仲がいい」「チームワークがある」。多くの経営者がそれを強みとして語ります。これは中小企業に限った話ではありません。大企業でも、部門やプロジェクトチーム単位で見れば、同じ結束力が働いています。ただし向きを問わなければ、まとまりは強みとは限りません。結束が固いまま、会社の狙いと逆方向に固定化することもあるからです。
たとえば、こんな場面を思い浮かべてください。若手が新しいやり方を試そうとすると、ベテランが横から「うちは昔からこうやってるから」と静かに元へ戻してしまう。会議で新施策が発表されても誰も反対せず、そのあとの休憩室で「またか」「どうせ続かない」という会話が交わされる。定時に帰ろうと席を立った社員が、まわりの視線を感じて座り直す。改善提案の仕組みはあるのに、何か書けば「波風を立てるな」という空気が先に立つ。
どれも就業規則には一行も書かれていません。それでも、評価制度や給与制度を上回る力で社員の行動を決めています。バンク配線の14人を動かしていたのと同じ力です。
ホーソン実験は今の日本企業にも当てはまるのか|現代研究との接続
ホーソン実験の発見は、100年前のアメリカの工場の話にとどまりません。現代日本の経営学研究でも、組織が抱える根深い問題を説明する枠組みとして使われ続けています。
たとえば、組織論の研究者である太田肇氏(同志社大学)は、日本企業で繰り返される不祥事の構造を次のように分析しています(※1)。
日本の組織は非公式な疑似共同体としての側面と、公式組織の側面を有しており、典型的な二重構造をなしている。
そしてこの二重構造のもとで何が起きるかというと、
上司と部下の双方とも責任逃れしやすいので責任感が希薄になり、そこに「集団無責任体制」が生まれる。
しかも、この構造に「管理強化」で対応しようとすると逆効果になる、と太田氏は指摘します。
過剰な管理が従業員の責任感や自律性、判断力を低下させ、逆に不祥事を増加させる可能性もある。管理が強くなるのに反比例して、当事者意識が薄れるからである。
公式組織と非公式組織の二重構造。管理の圧力が裏目に出る構図。どちらも、ホーソン実験が100年前に記録したものと同じです。
自社に引きつけるなら、兆候はこんな形で現れます。研修を入れても現場に定着しない。新しい評価制度が、運用が始まる頃には骨抜きになっている。ベテランの一角が新人を「飲み込んで」しまい、入社時のやる気が数か月で消える。施策そのものが悪いのではなく、非公式組織の感情の論理が公式の施策を吸収してしまっているのです。
そこに気づかず、給料や労働条件のような目に見える条件だけをいじり続けるのは、休憩時間だけをいじって生産性に翻弄された100年前のフィラデルフィアの経営と、ほとんど変わりません。
事例|有限会社丸昇が「俺についてこい」から「それ、やってみよう」へ転換
理論だけではイメージしづらいので、実際の企業で「決める前に聞く」が業績をどう動かしたのかを見てみましょう。
中小企業庁が2023年に公表した「中小企業・小規模事業者の人材活用事例集」に、愛知県海部郡蟹江町の有限会社丸昇の事例が掲載されています。衣料品プリントの企画・製造・受託加工を手掛ける従業員95名の会社で、創業は1985年。国内生産の減少でプリントの加工請負の需要が縮小するなか、新規商材を開発できる「仕入加工販売」への業態転換が課題になっていました。
ところが、社長が中心になって対策を打ち出しても、現場の従業員がついてきません。経営理念も人事評価制度も整っておらず、しかも当時は、それが課題だということ自体に気づけていなかったといいます。
転機は、先輩経営者の一言だった
2014年、社長は中小企業大学校の研修に参加します。そこで出会った先輩経営者から投げかけられたのが、この一言でした。
「そんなんじゃ従業員は付いてこん!」
耳の痛い言葉だったのでしょう。社長はここから「経営理念がないと従業員は付いてこないのではないか」という課題に思い至り、理念づくりに動き始めます。
決める前に、一人ひとりに聞いた
丸昇のやり方は、ここからが普通と違いました。多くの会社では、経営者が一人で理念を書き上げ、額に入れて掲げて終わりです。丸昇は2015年、経営理念を考えるにあたって「10年後にどうなりたいか」をテーマに、従業員一人ひとりと個人面談を実施したといいます。
面談を通じて従業員の思いや将来設計を初めて知ることができた。従業員に話を聞くことで、経営理念への従業員のオーナーシップも高まった。
「初めて知ることができた」という言葉が示すとおり、従業員が何を考えているのかをまとまって聞く機会は、それまで無かったのでしょう。決める前に、全員に聞く。リレー組立試験室で観察者がやっていたことと、同じ構造です。
理念づくりをきっかけに、社長は人事評価制度の整備(2018年3月運用開始)と、自分が一人で抱えていた仕事の権限委譲に着手します。顧客営業や技術開発も、最初は社長が一緒に取り組みながら、従業員の自発的な取り組みの成果を認めて成功体験を積み重ね、少しずつ任せていきました。事例集には、丸昇が辿り着いた考え方がはっきり書かれています。
社長一人でできることには限界があるため、従業員を信頼する(信じて頼る)経営に変えていった。
結果は売上目標200%達成、そして組織の自走
転換の結果は、業績にはっきり現れました。改革当初に立てた売上目標5億円を大幅に上回る売上10億円(200%達成)で、業績はV字回復。さらに、従業員の声に耳を傾け、一人ひとりが主体的に活躍できる環境を整えたことが、従業員の自律的な成長につながったと事例集は報告しています。中核人材の発案でプリントの加工請負に加えて製品の仕入加工が始まり、刺繍やグッズの受注も増加。単価の向上と品種の多様化が進み、顧客もアパレルからイベント・物販・コンサート系へと広がりました。
丸昇の歩みをホーソン実験に重ねると、構造の一致が見えてきます。監督の圧力ではなく信頼で人を動かしたこと。決める前に一人ひとりに聞いたこと。そして「こんなことやりたい」「それ、やってみよう」という、バンク配線とは逆向きの空気を育てたこと。3つの発見を、そのまま実地でなぞった形になっています。
社長が「俺についてこい」と言っているうちは、組織は社長の限界以上には動きません。社員が「こんなことやりたい」と言い始めたとき、組織は経営者の手を離れて自走を始めます。そしてこの「決める前に聞く」は、経営理念のような大きな話に限りません。シフトの組み方にも、評価制度の見直しにも、新サービスの方向性にも、今日から挟むことができます。
まとめ|公式組織と非公式組織は「能率の論理」と「感情の論理」で同居している

ホーソン実験から導かれた人間観は、当時の経営学に大きなパラダイムシフトを起こしました。
| 旧来の人間観(経済人モデル) | 新しい人間観(社会人モデル) |
|---|---|
| 孤立的|人は単独で動く | 連帯的|人は集団のなかで動く |
| 打算的|利益で動く | 献身的|共感や忠誠心で動く |
| 論理的|お金の論理だけが効く | 感情的|感情と関係性が効く |
ここで言う「論理的」とは、日常語の「筋道を立てて考える」という意味ではありません。「人はお金や損得という経済合理性だけで動く」という前提を指した言葉です。新しい人間観は、人を経済合理性の塊として見るのをやめ、職場の人間関係や集団の空気のなかで、感情を介して動く「社会人」として捉え直しました。
そのうえで、ホーソン実験の最終的な主張がこれです。
公式組織は「能率の論理」、非公式組織は「感情の論理」で動く。
両者は同じ会社のなかに同時に存在し、両方を見られる経営者だけが組織を動かせる。
経営者が公式組織だけを設計しているうちは、非公式組織が施策を吸収してしまいます。逆に、非公式組織を意識して関係性に投資すれば、人は集団の中でこそ力を発揮する。6人の女性と、丸昇の従業員たちが示したとおりです。経営者の役割は、その力を引き出すために、人を「機械」や「コスト」として見ない人間観を持つことだと言えます。
経営者は何から手をつければよいか

理論を踏まえて、中小企業から大企業まで、経営者・管理職・人事担当者が明日から取り組める実践ステップを3つに整理します。
まず、非公式組織の向きを観察する
最初の仕事は、自社の見えない組織がどちらを向いているかを知ることです。
- 朝礼・休憩室・退勤後の会話で、社員同士はどう話しているか
- 新しい施策を入れたとき、ベテラン層の最初のひと言は「やってみたい」か「めんどくさい」か
- 業務改善の提案は現場から自然に出てくるか、上から取りに行かないと出てこないか
ここを見ていない経営者は、公式組織だけで会社を動かしている錯覚に陥ります。非公式組織の向きを知ることが、すべての施策の前提になります。
「決める前に一言」を習慣化する
リレー組立試験室の発見そのものです。結論を変える必要はありません。「相談された」という事実そのものが、社員の参加感を作ります。
- 給与制度・シフト・社内ルール・新サービス・人事異動、どれも「決めてから通知」ではなく「決める前にひと声」
- 全員でなくていい。影響を受ける部署の代表数名でいい
- 聞いた結果、決定が変わらなくても構わない。聞かれたという事実が効く
組織規模を問わず、内容がほぼ同じ施策なのに、事前にひと声かけたかどうかで現場の受け止めがまるで違ってくる場面が起きます。事前相談は時間のロスに見えて、実際には施策の浸透を速める近道です。階層別研修や人材開発を担当する人事部門でも、新しい研修制度の導入や評価基準の変更を事前に現場に相談することで、参加度と効果が大きく変わることが知られています。
管理職の言動を定期的に点検する
フィラデルフィア紡績工場の発見そのものです。制度を整えても、運用する管理職の圧力で機能していないなら、変えるべきは制度ではなく管理職の言動です。
- 中堅・店長クラスが、現場にどんな圧をかけているか
- 「やる気がない」「使えない」というラベリングをしていないか
- 有給・残業・育休といった制度の利用に、無言の圧力がかかっていないか
中小企業庁「人材活用事例集」(2023年6月)には、丸昇のほかにも、職場のコミュニケーションや組織風土の改善で成果を上げた中小企業の事例が複数収められています。共通するのは、管理を強化した会社ではなく、対話と信頼関係に投資した会社だという点です。
100年前、研究者たちは6人の女性と14人の男たちの働きぶりから、給与明細にも組織図にも載らない力を発見しました。その力は、いまもあなたの組織で動いています。経営者であれば全社レベルで、人事担当者であれば部門やチーム単位で、その非公式組織の向きを観察してみてください。今週、社員たちの休憩室ではどんな会話が交わされていたでしょうか。そしてその空気は、会社や部門が進みたい方向と同じ向きを向いているでしょうか。
よくある質問(FAQ)
Q1. 集団規範(グループ・ノーム)とは何ですか?
A. 集団のメンバーに暗黙に共有された行動ルールのことです。ホーソン実験のバンク配線作業観察では、14人の男子作業員の間に「精を出しすぎるな・怠けすぎるな・告げ口するな・偉ぶるな」という4つの基本的感情が支配していました。集団出来高給で全員の報酬が上がる仕組みでも、集団規範が「精を出しすぎるな」だったため、サボタージュが起きました。
Q2. 中小企業の経営者がホーソン実験から学べる実践的なヒントは何ですか?
A. 最も実践的なのは「決める前に一言相談する」を習慣化することです。リレー組立試験室では観察者が条件を変えるたびに6人の女性に事前相談し、参加感と忠誠心が生まれて生産性が上がり続けました。「決めてから通知」ではなく「決める前にひと声かける」のステップを挟むだけで、社員の納得感と協力度が変わります。
Q3. 職場の雰囲気が悪いとき、給料を上げれば改善しますか?
A. 改善する場合と、しない場合があります。職場の雰囲気の悪さの原因が「給料の業界平均割れ」など衛生要因の不足にあるなら、給料アップで一定の改善は期待できます(詳しくは第2回ハーズバーグ二要因理論の記事で解説)。しかし、雰囲気の悪さが「非公式組織の負の集団規範」「監督者の圧力」「管理職の事後通知型マネジメント」に起因する場合、給料を上げても職場の空気は変わりません。ホーソン実験が示したのは、まさに「給料を上げても変わらない領域」が存在するということです。まずは非公式組織の向きと管理職の言動を点検することが先決です。次の打ち手として、階層を超えた共通体験で「事前相談・対話・全体最適」を組織に埋め込みたいなら、戦略MG(マネジメントゲーム)研修の導入も選択肢に入ります。
Q4. バンク配線のような負の集団規範が職場に根付いていた場合、どうやって変えればよいですか?
A. 負の集団規範はトップダウンの命令では変わりません。バンク配線の14人が示したように、集団規範は経済的誘因よりも強く機能するため、報酬制度の変更だけでは向きを変えられません。有効なのは、規範の方向性を変える核になる人材を見つけて対話の場を作ること、そして管理職自身が「精を出すことへの空気」を言動で示し続けることです。管理強化が当事者意識を奪うこと(太田, 2017)を念頭に置けば、対話と信頼関係への投資が唯一の有効手段だとわかります。
次回予告
第2回は、ホーソン実験の発見をさらに深めた「動機づけ」の理論であるハーズバーグの二要因理論を取り上げます。本記事で「人は職場の人間関係で動く」と述べましたが、ハーズバーグはその「動かす要因」を衛生要因(給料・労働条件・人間関係)と動機づけ要因(達成・承認・仕事自体・責任)に分け、両者がまったく別の働きをすることを発見しました。「給料だけを上げても辞める社員」をどう留まらせ、どう活躍させるか。ホーソン実験の延長線上にある実務的な処方箋を解説します。
→ 第2回「社員のやる気がない本当の原因|給料だけを上げても辞める理由をハーズバーグ二要因理論で解説」
参考文献・出典
公的データ
- 中小企業庁「中小企業・小規模事業者の人材活用事例集」(2023年6月)
学術論文
- ※1 太田 肇(2017)「日本型組織と不祥事──「管理強化」がなぜ裏目に出るのか──」『經營學論集』第87集, pp.82-89, 日本経営学会