コンステラ経営相談所
経営のヒント

【第1回】職場の雰囲気が悪い本当の原因|「人間は機械じゃない」を100年前に発見したホーソン実験で解説

#ホーソン実験#公式組織#非公式組織#集団規範#職場の雰囲気#中小企業#メイヨー#組織風土

職場の雰囲気が悪い、社員が指示通り動かない、ベテランの集団がサボっているように見える──。原因は給料でも休憩でもなく、目に見えない「非公式組織の感情の論理」にあります。100年前のホーソン実験が発見した「集団規範」と「公式組織と非公式組織」の働きを、中小企業の現場目線で解説します。

「給料を上げても、休憩を増やしても、なぜか職場の空気が重い」中小企業あるある

「賞与を上げて、有給も取りやすくした。それなのに職場の雰囲気はずっと重いまま」 「新しい施策を打っても、現場から反応がない。誰も喜ばないし、誰も反対もしない」 「ベテランの集団が、なんとなく仕事を流している。指示は通っているはずなのに、結果が出ない」

中小企業の現場で本当によく聞かれる悩みです。職場の雰囲気が悪い、社員が一体感を持たない、部下と信頼関係を築けない──これらは、給料や労働条件だけを見ていても解決しないタイプの問題です。

「最終的には待遇で解決できるはずだ」「コミュニケーション研修を導入すれば変わるはずだ」──そう考えて手を打っても、何も変わらないことがあります。なぜでしょうか。

それは、会社の中に 目に見える組織目に見えない組織 の、2つが同居しているからです。経営者がアプローチしているのは前者だけ。社員が実際に動いているのは後者の力学。この構造を見ないまま施策を打ち続けると、いくら投資しても職場の空気は変わりません。

このことを今から100年前、アメリカで実証的に発見した研究があります。それが ホーソン実験 です。


結論|会社には「能率の論理」と「感情の論理」が同居している

本記事の結論を先にお伝えします。

会社という組織には、2つの論理が常に同居している。

公式組織(目に見える組織)── 「能率の論理」で動く。組織図・職務分掌・業績目標・給与制度がここに入る。

非公式組織(目に見えない組織)── 「感情の論理」で動く。誰と仲がいいか・暗黙のルール・忠誠心・派閥がここに入る。

経営者が公式組織だけを見ていると、非公式組織が公式の施策を骨抜きにします。逆に、非公式組織の存在を意識して両方を整えれば、社員の協働本能を引き出せます。

これがホーソン実験の最大の発見であり、現代日本の中小企業の経営にもそのまま当てはまる原則です。

公式組織と非公式組織の対比図|能率の論理と感情の論理

それでは、なぜこの結論が「100年前の研究」から導かれるのか、ホーソン実験の物語を追いながら見ていきましょう。


ホーソン実験以前の世界観|「人は機械、お金で動く」というテイラーの前提

ホーソン実験の意義を理解するには、その前提となっていた テイラーの科学的管理法 を押さえておく必要があります。

20世紀初頭のアメリカ。フレデリック・テイラーが提唱した科学的管理法は、世界の工場経営の主流でした。前提はシンプルです。

「人間は機械であり、お金で動く」

経済学で言う 経済人(エコノミックマン) モデルの典型です。人は感情を持たない受け身の存在で、報酬と命令にだけ反応する。この前提のもとに、ストップウォッチで動作と時間を測り、最適な作業手順を「課業(タスク)」として確定し、達成すれば差別出来高給を支払い、達成できなければ職場を変えさせる──これがテイラー流のマネジメントです。

1920年代になると、その延長線上で「人間という機械の耐久性」を測る研究が活発になります。

  • 休憩時間を何回入れたら、どれくらい作業効率が上がるか
  • 照明を明るくしたり暗くしたりしたら、能率はどう変わるか
  • 室温は何度が最適か

人を物理的な条件への反応器として扱う、いまから見ればずいぶんと冷たい研究テーマでした。

ところが、現場のデータがこの前提を裏切り始めます。人は機械のようには動かなかった のです。ここからホーソン実験の物語が始まります。


発見1|フィラデルフィア紡績工場「圧力から解放したら、なぜか生産性が上がった」

最初の予兆は、1920年代初頭のフィラデルフィアの紡績工場で起こりました。

この工場は、テイラーの科学的管理法を忠実に実践していました。差別出来高給を導入し、頑張れば頑張るほど報酬が増える仕組み。理論上は工員のやる気が出るはずです。

ところが、現場は 陰気・孤独・対話ゼロ。工員たちは出来高給に反応せず、生産性は伸びませんでした。

調査に入った研究者たちは、「人間機械が疲労しているのだろう」と仮説を立て、1日4回の休憩を導入しました。すると 生産性は上がった。仮説は実証されたかに見えました。

ところが話はここで終わりません。

休憩を快く思わない監督者が「人間は機械なんだから、休ませる必要はない」と言って休憩を全廃してしまった。すると わずか1週間で生産性は元の悪い水準に戻りました。慌てて研究者たちは休憩を復活させますが、今度は「課業を達成した人だけ休憩できる」という稼ぎ出し方式に変えてしまった。これは欠勤を増やしただけで失敗。最終的に 休憩を完全に保障する 形にしたとき、生産性は元の水準を超えて伸びていきました。

教科書が省略する真の発見

多くの教科書は、このエピソードを「休憩を入れたら生産性が上がった」という単純な相関で片付けます。

しかし、もう一段深く読むと、本当の発見はこうでした。

工員たちは「監督者の圧力」に苦しんでいた。 圧力からの解放こそが、生産性を上げた。

休憩そのものが効いたのではありません。休憩を「強制でなく保障された権利」として与えたことで、監督者と工員の関係性が変わった。それが生産性を動かした、という構造です。

これは現代の中小企業にもそのまま通じます。「制度はあるのに、空気が許さない」状態は、制度がない状態と同じか、それ以下 です。

  • 有給休暇はあるが、上司の機嫌で取りやすさが変わる
  • 残業免除制度はあるが、申請すると無言の圧がかかる
  • 1on1は設定されているが、実際は説教の場になっている

このパターンに心当たりがある経営者は少なくないはずです。

フィラデルフィア紡績工場の右往左往と「圧力からの解放」


発見2|リレー組立試験室「6人の女性に"事前相談した"だけで生産性が上がり続けた」

ホーソン実験の本格的な舞台は、シカゴにあったウェスタン・エレクトリック社の ホーソン工場 です。1924年から1932年まで、エルトン・メイヨーらハーバード大学の研究者たちが関わり、人間関係論の出発点となる発見を次々と生み出しました。

最も有名なのが リレー組立試験室 の実験です。

6人の女性作業員を別室に隔離し、観察者を1人配置。彼女たちに継電器(リレー)の組立作業をしてもらいながら、賃金・休憩・軽食・労働条件などの条件を順次変えて、生産性がどう変化するかを観察しました。

予想は素直なものでした。「労働条件を良くすれば生産性は上がる。悪くすれば下がる」。

ところが結果は奇妙でした。条件を良くしても、悪くしても、生産性は上がり続けた のです。労働条件を意図的に切り下げても、生産性は伸びていく。研究者たちは頭を抱えました。

教科書的な「ホーソン効果」では説明しきれない発見

この現象は、しばしば「観察されているから頑張った(ホーソン効果)」とまとめられます。それも一面ですが、現場で何が起きていたのかをもう一段深く見ると、まったく違う構造が見えてきます。

観察者の男性は、形式的には作業員の上司にあたる「監督者」でした。ところが、彼は いつもの怖いボスとは違っていました

  • 怒鳴らない
  • 監視せず、ただ記録するだけ
  • そして何より、条件を変えるたびに 「これを試してみたいんだけど、どう思う?」と6人に事前相談していた

6人の女性たちはどう感じたでしょうか。「この実験を成功させてあげたい」「このボスのために頑張ろう」。事前相談されたという事実が、参加感と忠誠心を生んだ のです。彼女たちは室内の自由な雰囲気のなかで、互いを「個性ある人格」として関心を寄せ合う社会集団に一体化していました。これが生産性を右肩上がりに押し上げた正体でした。

中小企業への翻訳|「決める前に一言相談する」だけで何かが変わる

この発見を中小企業の経営の言葉に翻訳すると、こうなります。

結論を変える必要はない。「相談された」という事実が、忠誠心を作る。

中小企業の現場では、社長や店長が「決めてから伝える」「やらせてから事後説明」になりがちです。スピード感を重視する組織ほどそうなる。決定の質は変わらないので、合理的に見えます。

ところが、この「事後通知型」のマネジメントは、リレー組立試験室で発見された「事前相談型」のちょうど真逆です。結論は同じでも、社員の参加感はまったく違うものになる

  • 給与制度を変えるとき
  • シフトを変えるとき
  • 新しいルールを入れるとき
  • 人事異動を打診するとき
  • 新サービスの方向性を決めるとき

どれも「決めてから通知」ではなく、「決める前にひと声かける」のステップを挟むだけで、社員が制度をどう受け止めるかが大きく変わります。100年前の6人の女性が示したのは、上司と部下の信頼関係を作る最もシンプルな方法は、事前に相談するというたった一つの行動だった ということです。

リレー組立試験室の「事前相談 → 参加感 → 忠誠心 → 生産性」のループ


発見3|バンク配線作業観察「14人の男衆のサボタージュ ──"悪い"集団規範の発見」

ホーソン実験のもう一つの主要なエピソードは、後半のフェーズで行われた バンク配線作業観察 です。

今度は14人の男子作業員のチームを観察します。彼らには 集団出来高給 が適用されていました。チーム全員で頑張れば、全員の報酬が上がる仕組みです。経済人モデルを前提にすれば、全員が一致団結して生産性を最大化するはずでした。

ところが現実はちょうど逆でした。集団でサボタージュが起きた のです。チームには、誰も口に出さない4つの暗黙のルールが支配していました。

  1. 仕事に精を出しすぎるな(出る杭は打たれる)
  2. 仕事を怠けすぎるな(足を引っ張るな)
  3. 上役に告げ口をするな(裏切り者になるな)
  4. 偉ぶるな(仲間内では平等であれ)

この4つのルールは、専門用語で 集団規範(グループ・ノーム) と呼ばれます。経済的には全員が損をするのに、集団規範のほうが強く機能して、メンバーは規範に従って働きました。リーダーが頑張っても、ベテランが「お前、ちょっと頑張りすぎだぞ」とたしなめる。新人もすぐにそのトーンに合わせる。会社が用意した報酬の論理よりも、仲間内の感情の論理が優先される。

同じ「集団のまとまり」でも、向きは正反対だった

リレー組立試験室の6人の女性も「集団として一体化」していました。バンク配線作業観察の14人の男衆も「集団として一体化」していました。

しかし、向きが正反対だったのです。

集団規範の向き 結果
6人の女性(リレー組立試験室) 「この仕事を成功させよう」「ボスのために頑張ろう」 生産性は右肩上がり
14人の男衆(バンク配線) 「精を出しすぎるな」「適当にやれ」「告げ口するな」 生産性は伸びない・サボタージュ発生

これがホーソン実験の最も実践的なメッセージです。集団のまとまりは、必ずしも企業にとってプラスに働くとは限らない。むしろ生産性を下げる方向に固定化することがある。

中小企業の経営者の多くは、「うちの社員は仲がいい」「チームワークがある」を組織の強みだと考えがちです。しかし、向きを問わなければ、それは強みとはかぎらない。次のような兆候が見えたら、負の集団規範が育っている可能性があります。

  • ベテラン層が、新人や若手に「うちのやり方はこうだから」と押し付けている
  • 新しい施策を打つたびに、決まって「またか」「めんどくさい」が現場から返ってくる
  • 業務改善提案が出てこない。出ても「波風を立てるな」と握り潰される
  • 残業時間に不文律のルールがある(早く帰ると浮く、遅くまでいるのが評価される、など)
  • 朝礼や懇親会で誰も本音を話さない

これらは経営者の目には見えないが、確実に存在し、公式の評価制度や給与制度を上回る力で社員を動かしています。

6人の女性 vs 14人の男衆 ── 同じ集団規範でも向きが正反対


100年経った今でも生きる発見|現代日本企業の研究との接続

ホーソン実験の発見は、100年前のアメリカの工場の話ではありません。現代日本の経営学研究でも繰り返し検証され、組織が抱える根深い問題の構造を説明する枠組みとして使われ続けています

たとえば、組織論の研究者である太田肇氏(同志社大学)は、日本企業で繰り返される不祥事の構造を次のように分析しています(※1)。

日本の組織は非公式な疑似共同体としての側面と、公式組織の側面を有しており、典型的な二重構造をなしている。

そしてこの二重構造のもとで何が起きるかというと、

上司と部下の双方とも責任逃れしやすいので責任感が希薄になり、そこに「集団無責任体制」が生まれる。

しかも、この構造に「管理強化」で対応しようとすると逆効果になる、と太田氏は指摘します。

過剰な管理が従業員の責任感や自律性、判断力を低下させ、逆に不祥事を増加させる可能性もある。管理が強くなるのに反比例して、当事者意識が薄れる からである。

ここで指摘されている要素は、ホーソン実験の発見そのものです。

ホーソン実験の発見 太田(2017)の現代日本企業分析
公式組織と非公式組織の二重構造 非公式な疑似共同体と公式組織の二重構造
監督者の圧力からの解放が生産性向上の鍵 管理強化が当事者意識を奪い、逆効果となる
バンク配線の14人の集団規範(精を出しすぎるな) 集団無責任体制・集団的機会主義

100年前にアメリカの工場で発見された原則が、2017年の日本企業の不祥事構造をそのまま説明する。これは経営学の古典が単なる歴史ではなく、現役の道具として機能している証拠です。

職場の雰囲気が重いまま改善しないとき、ベテラン層が新人を「飲み込んで」しまうとき、新しい施策が骨抜きになるとき──そこには必ず、非公式組織の感情の論理が働いています。「管理を強化しても効果が出ない」「研修を入れても定着しない」状況の背景には、ホーソン実験が見抜いた構造がそのまま潜んでいます。

経営者がそこに気づかず、給料や労働条件のような目に見える条件だけをいじり続けるのは、フィラデルフィア紡績工場で休憩時間だけをいじり続けて生産性に翻弄された100年前の経営とほとんど変わりません。100年前の発見が、今この瞬間も中小企業の現場で再現され続けているのです。


事例|有限会社丸昇が「俺についてこい」から「それ、やってみよう」へ転換

理論だけだとイメージしづらいので、実際の中小企業の事例で「事前相談・対話の力」がどう業績を動かしたのかを見てみましょう。

中小企業庁が2023年に公表した「中小企業・小規模事業者の人材活用事例集」に、愛知県海部郡蟹江町の 有限会社丸昇 の事例が掲載されています。

同社は衣料品プリントの企画・製造・受託加工を手掛ける従業員95名の会社で、創業は1985年。長年、衣料品プリントの加工請負を中心に事業を続けてきましたが、国内生産の減少にともないプリント需要が縮小するなかで、新規商材の開発ができる「仕入加工販売」への業態転換が課題となっていました。

ところが、社長が中心になって対策を打ち出しても、現場の従業員がついてきてくれない という状況だったといいます。経営理念や人事評価制度が整っていなかったうえに、その課題自体にも気づけていなかった。多くの中小企業に思い当たる節のある景色です。

「経営理念がないと従業員は付いてこない」という気づき

転機は2014年、社長が中小企業大学校の研修で出会った先輩経営者の一言だったといいます。「そんなんじゃ従業員は付いてこん!」── このひと言から、社長は「経営理念がないと従業員は付いてこないのではないか」という課題に気づき、経営理念の策定に着手します。

ただし、丸昇のやり方は普通とは違いました。多くの中小企業では経営者が一人で理念を作り、それをトップダウンで現場に通達します。しかし丸昇では2015年、経営理念を考えるにあたって「10年後にどうなりたいか」をテーマに、従業員一人ひとりと個人面談を実施した といいます。

面談を通じて従業員の思いや将来設計を初めて知ることができた。従業員に話を聞くことで、経営理念への従業員のオーナーシップも高まった。

これはまさに、ホーソン実験のリレー組立試験室で観察者が6人の女性に毎回事前相談していた構造そのものです。

「社長一人」から「信じて頼る」経営へ

経営理念の策定をきっかけに、社長は人事評価制度の整備(2018年3月運用開始)と、社長が一人で抱えていた仕事の 権限委譲 に着手します。顧客営業や技術開発も、最初は社長が一緒に行いながら、従業員の自発的な取り組み成果を認めて成功体験を積み重ね、少しずつ権限を移していきました。

事例集には、丸昇が辿り着いたマネジメントの考え方がはっきり書かれています。

社長一人でできることには限界があるため、従業員を信頼する(信じて頼る)経営 に変えていった。

これは、第1回の核心メッセージそのものです。テイラー型の「人間は機械、お金で動く」前提でも、現代日本企業の「管理を強化すれば不祥事は減る」前提でもなく、ホーソン実験が100年前に発見した「人は集団のなかで信頼関係と感情で動く」という前提に立った経営です。

ホーソン実験の発見と丸昇の取り組みを並べると、驚くほど構造が一致します。

丸昇の取り組み ホーソン実験での対応する発見
「俺についてこい」型から従業員を信じて頼る経営へ転換 フィラデルフィア紡績工場 ── 監督者の圧力からの解放
経営理念を「決める前に」従業員一人ひとりと個人面談 リレー組立試験室 ── 事前相談が参加感と忠誠心を生む
「こんなことやりたい」「それ、やってみよう」と発言する組織風土へ バンク配線とは逆向きの ── 正の集団規範

結果:売上目標200%達成(5億円目標 → 10億円達成)、組織が自走する

この対話型・権限委譲型への転換の結果は、明確な業績指標として現れました。改革当初に立てた 売上目標5億円を大幅に上回り、売上10億円(200%達成)。業績はV字回復 しました。

それだけではありません。事例集はこう報告しています。社長一人が動くのではなく、従業員の声に耳を傾け、一人一人が主体的に活躍できるように環境を整えたことで、従業員の自律的な成長 につながった。中核人材からの発案でプリントの加工請負だけでなく 製品の仕入加工 も始まり、刺繍やグッズの受注も増加。単価の向上と品種の多様化につながり、顧客もアパレルだけでなくイベント・物販・コンサート系まで広がっていきました。

社長が「俺についてこい」と言っているうちは、組織は社長の限界以上には動きません。社員が「こんなことやりたい」「それ、やってみよう」と言い始めたとき、組織は経営者の手を離れて自走を始める──丸昇の事例が示すのは、まさにそのことです。

そしてこの「対話で決める」「信じて頼る」という行動は、誰にでも今日から始められます。経営理念のような大きな話だけでなく、シフトの組み方、評価制度の見直し、新サービスの方向性、どれにも「決める前にひと声かける」ステップを挟むことができます。


まとめ|公式組織と非公式組織は「能率の論理」と「感情の論理」で同居している

ホーソン実験から導かれた人間観は、当時の経営学に大きなパラダイムシフトを起こしました。

旧来の人間観(経済人モデル) 新しい人間観(社会人モデル)
孤立的|人は単独で動く 連帯的|人は集団のなかで動く
打算的|利益で動く 献身的|共感や忠誠心で動く
論理的|お金の論理だけが効く 感情的|感情と関係性が効く

ここで言う「論理的」とは、MBA的な「ロジカル」ではなく、「経済合理性のみで動く」という意味でメイヨーが使った言葉です。新しい人間観は、人を経済合理性の塊として見るのをやめ、職場の人間関係・上司との関係性・集団の空気の中で感情を媒介して動く「社会人」として捉え直しました。

そしてもう一つ、ホーソン実験の最終的な主張が残ります。

公式組織は「能率の論理」、非公式組織は「感情の論理」で動く。 両者は同じ会社のなかに同時に存在し、両方を見られる経営者だけが組織を動かせる。

経営者が公式組織だけを設計しているうちは、非公式組織が公式の施策を吸収してしまいます。逆に、非公式組織を意識し、関係性に投資すれば、両者が整合して社員の協働本能が引き出されます。

メイヨーの言葉を借りれば、人は本来、集団で協働して個々人の欲求を満たそうとする協働本能を持っている。経営者の役割は、この協働本能を引き出すために、人を「機械」「コスト」として見ない人間観を持つことです。

経営学の人間観の変遷|経済人モデル → 社会人モデル


中小企業の経営者がやるべき3ステップ

理論を踏まえて、中小企業の経営者・店長クラスが明日から取り組める実践ステップを整理します。

ステップ1|「うちの非公式組織はどちら向きか」を観察する

最初にやるべきは、自社の非公式組織の向きを観察することです。

  • 朝礼・休憩室・退勤後の会話で、社員同士はどう話しているか
  • 新しい施策を入れたとき、ベテラン層の最初のひと言は何か
  • 「やってみたい」「面白そう」のほうか、「めんどくさい」「またか」のほうか
  • 業務改善提案が現場から自然に出てくるか、それとも上から取りに行かないと出てこないか

ここを聞いていない経営者は、公式組織だけで会社を動かしている錯覚に陥っています。非公式組織の向きを知ることが、すべての施策の前提 になります。

ステップ2|「決める前に一言相談する」を習慣化する

リレー組立試験室の発見そのものです。結論を変える必要はありません。「相談された」という事実そのものが、社員の参加感と忠誠心を作ります。

  • 給与制度・シフト・社内ルール変更・新サービス導入・人事異動
  • どれも「決めてから通知」ではなく「決める前にひと声かける」のステップを挟む
  • 全員でなくていい。影響を受ける部署の代表数名でいい
  • ヒアリングしただけで決定が変わらなくてもいい。「相談された」事実そのものが効く

事前相談は時間のロスのように見えて、実際は施策の浸透速度を上げる近道です。

ステップ3|「監督者の圧力」を点検する

フィラデルフィア紡績工場の発見そのものです。制度を整えても、運用する管理職の圧力で機能していないなら、変えるべきは制度ではなく管理職の言動です。

  • 中堅・店長クラスが、現場に対してどんな圧をかけているか
  • 「やる気がない」「怠けている」「使えない」というラベリングをしていないか
  • 制度(有給・残業・育休)の利用に、無言の圧力をかけていないか
  • 評価で「結果」だけを見て、「やる気を奪っていないか」を見落としていないか

中小企業庁「人材活用事例集」(2023年6月)にも、職場のコミュニケーション活性化や組織風土改善に取り組んで成果を上げた中小企業の事例が複数掲載されています。共通項は、管理を強化するのではなく、対話と信頼関係に投資した会社ばかりだという点です。

中小企業の経営者が踏むべき3ステップ|観察 → 事前相談 → 圧力点検


まとめ|「人間は機械じゃない」を経営に翻訳する

ホーソン実験の核心メッセージは、シンプルです。

人間は機械ではない。職場の人間関係と感情、集団の空気のなかで動く社会的存在である。

100年前にアメリカの工場で発見されたこの原則は、現代日本の中小企業にそのまま通用します。

  • 給料・休憩などの「条件」だけを整えても、職場の空気は変わらない
  • 「集団のまとまり」は、向きを問わなければ強みにならない
  • 「事前相談する」というたった一つの行動が、忠誠心と参加感を生む
  • 公式組織だけを見る経営者は、非公式組織に施策を骨抜きにされる
  • 公式組織と非公式組織を両方見られる経営者だけが、組織を動かせる

この第1回がシリーズの土台です。次回からは、この土台のうえで「では具体的にどう動機づけるのか」「どう仕事の構造を変えるのか」「どう経営理念で個人と組織を統合するのか」を、それぞれの理論を使って深掘りしていきます。


よくある質問(FAQ)

Q1. ホーソン実験を一言で言うと何ですか?

A. 1924〜1932年にアメリカのウェスタン・エレクトリック社ホーソン工場で行われた、職場の生産性の決定要因を調べる一連の実験です。最終的に「人はお金や物理的条件だけでなく、職場の人間関係と集団の感情で動く」ことを発見し、それまでの「人間は機械、お金で動く」という前提(経済人モデル)を覆しました。経営学が「経済人モデル」から「社会人モデル」へとパラダイムシフトする出発点となった、最重要の古典研究です。

Q2. 公式組織と非公式組織の違いは何ですか?

A. 公式組織は、組織図・規程・職務分掌・業績目標といった「会社が定めたルール」で動く組織で、能率の論理が支配します。非公式組織は、社員同士の人間関係・暗黙のルール・派閥・忠誠心といった「目に見えない関係性」で動く組織で、感情の論理が支配します。両者は同じ会社のなかに同時に存在します。経営者が公式組織しか見ていないと、非公式組織が施策を骨抜きにしていることに気づけません。

Q3. 集団規範(グループ・ノーム)とは何ですか?

A. 集団のメンバーに暗黙に共有された行動ルールのことです。ホーソン実験のバンク配線作業観察では、14人の男子作業員の間に「精を出しすぎるな・怠けすぎるな・告げ口するな・偉ぶるな」という4つの基本的感情が支配していました。集団出来高給で全員の報酬が上がる仕組みでも、集団規範が「精を出しすぎるな」だったため、サボタージュが起きました。集団規範は経済的合理性よりも強く社員を動かすことがあるため、向きを意識的にプラスに整えることが経営課題になります。

Q4. 中小企業の経営者がホーソン実験から学べる実践的なヒントは何ですか?

A. 最も実践的なのは「決める前に一言相談する」を習慣化することです。ホーソン実験のリレー組立試験室では、観察者が条件を変えるたびに6人の女性に事前相談していたことで、参加感と忠誠心が生まれ、生産性が上がり続けました。中小企業の現場でも、給与制度・シフト・新ルールなどを「決めてから通知」ではなく「決める前にひと声かける」だけで、社員の納得感と協力度が大きく変わります。結論を変える必要はありません。「相談された」という事実そのものが上司と部下の信頼関係を作ります。

Q5. 職場の雰囲気が悪いとき、給料を上げれば改善しますか?

A. 改善する場合と、しない場合があります。職場の雰囲気の悪さの原因が「給料の業界平均割れ」など衛生要因の不足にあるなら、給料アップで一定の改善は期待できます(詳しくは第2回ハーズバーグ二要因理論の記事で解説)。しかし、雰囲気の悪さが「非公式組織の負の集団規範」「監督者の圧力」「管理職の事後通知型マネジメント」に起因する場合、給料を上げても職場の空気は変わりません。ホーソン実験が示したのは、まさに「給料を上げても変わらない領域」が存在するということです。まずは非公式組織の向きと管理職の言動を点検することが先決です。


次回予告

第2回は、ホーソン実験の発見をさらに深めた「動機づけ」の理論 ── ハーズバーグの二要因理論 を取り上げます。本記事で「人は職場の人間関係で動く」と述べましたが、ハーズバーグはその「動かす要因」を 衛生要因(給料・労働条件・人間関係)動機づけ要因(達成・承認・仕事自体・責任) に分け、両者がまったく別の働きをすることを発見しました。「給料を上げても辞める社員」をどう留まらせ、どう活躍させるか。ホーソン実験の延長線上にある実務的な処方箋を解説します。

→ 第2回「社員のやる気がない本当の原因|給料を上げても辞める理由をハーズバーグ二要因理論で解説


参考文献・出典

公的データ

学術論文

経営に関するご相談はお気軽に

戦略MG研修の導入相談から経営全般のお悩みまで、初回ヒアリングは無料です。

関連記事

まずは話すところから。初回相談は無料です。オンライン可/お見積もり・研修内容のご提案までご相談無料
無料相談を予約する