コンステラ経営相談所
経営のヒント

事業計画どおりにいかないのは当然
ドメインと創発戦略で考える

事業計画どおりに進まないのは、経営者の能力不足ではなく戦略の常です。本記事は名著『戦略サファリ』をもとに、計画的戦略と創発戦略、そして自社を何屋と定義するか(ドメイン)を、ワイクの『環境は自分で作る』という視点やミツカンの事例とともに解説します。中小企業の経営者はもちろん、大企業の人事担当者が組織や部門の方向づけを考える際にも活用できます。

年度のはじめ、社員を集めて新しい事業計画を発表した。資料も数値目標も練り上げ、手応えもあった。それなのに、秋風が吹くころには計画書は引き出しの中。日々の受注と人繰りに追われ、気づけば誰も計画の話をしなくなっている。4月に立てた計画が、9月にはもう紙の上だけになっている。

経営規模を問わず、こんな場面に何度も出会います。社長から部門長まで、多くの経営者が「自分の詰めが甘かった」と自分を責めます。あわせて出てくるのが、「うちは結局、何屋なのか」「同業との値下げ競争から何年たっても抜け出せない」という、根っこでつながった悩みです。

最初にお伝えしたいのは、事業計画がそのとおりにいかないのは、経営者の能力不足ではなく、むしろ戦略の常だということです。問題は計画が外れることそのものではなく、外れる中で自社をどう方向づけるか。経営戦略論の名著『戦略サファリ』をたよりに、計画的戦略と創発戦略、そして自社を何屋と定義するか(ドメイン)を読み解きます。

この記事の3つのポイント
  • 立てた事業計画が外れるのは当たり前。将来を完全には見通せない以上、計画は必ずズレる(限定合理性)
  • 戦略には「計画的戦略」と「創発戦略」の二つの流れがあり、現実の戦略は必ず両方が混ざる
  • だから細かい計画より 「構想」が要。自社を何屋と定義するか(ドメイン)が、現場の創造性と意味のある創発を引き出す
  • 競い方は「立ち位置で競う(差別化)」と「自社の強みで競う」の二つ。とくに中小企業は後者、自社ならではの資源の蓄積を忘れずに

なぜ事業計画は計画どおりにいかないのか

ここまでの連載では、働く人の気持ちの話から、組織をまとめる経営理念(第4回)、そして「完璧な経営判断はそもそも不可能だ」という意思決定の話(第5回)へと進んできました。第5回で扱った 限定合理性(人は将来を完全には見通せない)を戦略の世界に持ち込むと、ひとつの答えが出ます。将来が見通せない以上、どれほど精密な計画も必ずどこかでズレる。計画倒れは恥ではなく、織り込んでおくべき前提だということです。

この記事を読み終えるころには、「計画どおりにいかないのは自分の力不足だ」という思い込みが解けて、計画の代わりに何を準備しておけばよいかが見えているはずです。道筋はこうです。まず「戦略とは何か」をめぐる有名なたとえ話から出発し、計画と創発という二つの流れを押さえます。そのうえで、計画より大きな器である「構想」、それを言葉にした「ドメイン」へ進み、最後に明日からできる3つのステップに落とし込みます。


戦略は一面では語れない|「盲目の男と象」の話

経営戦略論の世界的な教科書『戦略サファリ』は、有名なたとえ話から始まります。目の見えない男たちが象に触れ、脇腹を触った人は「壁のようだ」、鼻を触った人は「ヘビのようだ」、耳を触った人は「うちわのようだ」と言い張る。全員が一部だけを正しく捉えているのに、互いに譲らず言い争う、という話です(※1)。

戦略もこれと同じです。「戦略とは計画だ」「いや差別化だ」「いや理念だ」。どれも象の一部にすぎません。戦略は一面では語れないと知っておくことが出発点です。そして本記事がまず立つ面が、第5回から引き継いだ限定合理性です。経営戦略論を体系化したアンゾフも、同じことを「部分的無知」と呼びました。人は将来のすべてを見通せない。10年計画や3年計画がそのとおりに進まないのは、当たり前のことです。


「多角化しないと生き残れない」は本当か

戦略を初めて体系的に論じたのは、1965年のアンゾフ『企業戦略論』だとされます。彼が有名にしたのが 成長ベクトル という考え方で、事業の伸ばし方を「製品(今のまま/新しい)」×「市場(今のまま/新しい)」の4つに整理しました。

現在の製品 新しい製品
現在の市場 ① 市場浸透(今の商品を今の客にもっと) ③ 製品開発(今の客に新しい商品を)
新しい市場 ② 市場開発(今の商品を新しい客に) ④ 多角化(新しい商品を新しい客に)

たとえば、地方都市で一軒のコーヒースタンドを営む会社を思い浮かべてください。地元で常連客を増やしていくのが①の市場浸透。同じコーヒーを携えて隣町に2号店を出すのが②の市場開発。今の店で焼き菓子も焼き始めるのが③の製品開発。そして縁のなかった地域でまったく新しい業態に挑むのが④の多角化です。

注意したいのは、アンゾフが「最終的に多角化しないと企業は生き残れない」という強い前提に立っていたことです。これは鵜呑みにできません。実際には、ひとつの事業にこだわって何十年、何百年と続く中小企業や老舗はいくらでもあります。「とにかく多角化」ではなく、自社にとっての方向づけを考えることが大切です。


SWOT分析の落とし穴|分析だけでは戦略にならない

SWOT分析は優れた道具です。強み・弱み・機会・脅威を一枚の表で見渡せる手軽さには、それだけの価値があります。ただ、道具には道具の限界があります。

アンゾフ以降、戦略論は「合理的な計画をいかに立てるか」に力を注ぎました。SWOT分析やPPM(事業の位置づけマップ)など、分析の道具が次々と生まれます。『戦略サファリ』はこの流れをプランニング・スクール(戦略計画学派)と呼びます。専門経営者や大企業が増え、分かりやすい分析ツールへの需要が高まった時代背景がありました。

その行き着いた先を、『戦略サファリ』は 「分析麻痺症候群」 と呼んで批判します。分析に力を注ぐほど、その先にどう資源を蓄積し、どう時間をかけて育てるかという視点が抜け落ちる。表が埋まった達成感だけが残り、戦略を立てた気になってしまう。

実は、初期の戦略論の中にも、これに気づいた研究がありました。マイルズとスノーが1978年に示した 適応サイクル です。会社は「どの製品・市場でいくか」を決めたら終わりではなく、「それを実際に回せる仕組みを作れるか」「組織をどう整えるか」という問いへ進み、これらがぐるぐる回り続けるのが現実だ、という考え方です。一度の分析で決め切れるものではありません。


計画どおりにいかない中で生まれる「創発戦略」

図2:計画的戦略と創発戦略の流れ|意図された戦略と実現された戦略

ここで『戦略サファリ』の中心的な考え方、創発戦略に入ります。著者のミンツバーグは、戦略には二つの流れがあると考えました。ひとつは、前もって意図を固め、そのとおりの実現を目指す流れ。これが 計画的戦略 です。もうひとつは、進む途中の発見や行動が積み重なり、後から振り返ると一貫した形になっている流れ。これが 創発戦略 です。

たとえば、ある会社が最初から多角化を計画したのではなく、まず都市のホテルを買い、次にレストラン、次にリゾートを手がけるうちに、いつのまにか「レストラン付き都市型ホテル」という形が現れていた。これが創発戦略です。

ミンツバーグが強調したのは、現実の戦略には必ず両方が混ざるということでした。彼の言葉を借りれば、戦略は「計画的に策定されると同時に、創発的に形成され」ます(※1)。大枠の方向は決めておきながら、いつ・どこで・どうやるかは進みながら決めていく。計画どおりにいかないのは失敗ではなく、創発の余地がある正常な状態 なのです。


「計画」より「構想」|まだ見えない力を織り込む

図3:計画と構想の違い|今ある資源だけか、まだ見えない力を織り込むか

では、計画的戦略と創発戦略をどうつなぐのか。鍵になるのが、「計画」ではなく 「構想」 という発想です。

経営学者の沼上幹氏は、今ある資源(強み・弱み)だけを並べて戦略を立てるやり方を厳しく問い直しました。本来の戦略とは、これから日々の仕事を通じて蓄積されていく、まだ見えない力(経営資源)まで織り込んで描くもの だというのです。

象徴的なのが、日本ビクターが家庭用VTR(VHS)を生み出した話です。当時VTR事業部は業績不振の「お荷物」とされ、縮小要員として送り込まれた事業部長がいました。その彼が「業務用が作れるのだから家庭用も必ず作れる。まだ技術はないが、必ず蓄積できる」と社員を発奮させ、家庭用VTRの開発という構想を掲げます。結果として技術が蓄積され、VHSという世界標準が生まれました。

今ある強みだけを並べるSWOT分析から、この発想は出てきません。まだ持っていない力を「これから育てる」前提で方向を定める。ガチガチに固めた計画ではなく、組織の学習を引き出す構想こそが、本来の戦略だということです。


競い方は二つ|中小企業はどちらを選ぶべきか

戦略にはもう一つ、有名な対立軸があります。「どこで競うか」という見方の違いです。

  • 立ち位置で競う(差別化):市場の中で自社をどう位置づけ、競合とどう違いを出すか。マイケル・ポーターのポジショニングの考え方です。
  • 自社の強みで競う:自社が持つ独自の資源・力(コア・コンピタンス)で勝負する。リソース・ベースト・ビューと呼ばれる考え方です。

どちらが正しいという話ではなく、両方とも大切です。ただし規模の小さい組織の場合、価格や立ち位置の調整だけに目を向けると、体力勝負の値下げ競争に巻き込まれやすくなります。これは中小企業に限った話ではなく、大企業内でも事業部やチームという単位で見れば同じ構造が起きています。自社ならではの資源をどう蓄積するかという視点(先ほどの「構想」)を忘れないことが、長く戦うための鍵になります。


市場は「適応するもの」ではなく「自分で作るもの」|環境は内から見た外

第5回のコラムで予告した「環境は自分で作る」を、ここで戦略の具体論として展開します。戦略を考えるとき、私たちはつい「市場はこうなっている。だから、それに合わせよう」と考えます。組織論の世界的権威カール・ワイクは、ここに大事な注意をうながしました。環境は、どこまでいっても「内から見た外」だ というのです。

たとえば同じ自動車業界を、トヨタも日産もスズキも見ています。日経新聞の同じ記事を読み、同じ市場を眺めている。それでも、トヨタはトヨタのレンズ(メガネ)を通してしか業界を見ていません。日産は日産のレンズ、スズキはスズキのレンズからしか見ていない。神さまのように市場を上から見渡すことは、実際の経営者にはできません。だから環境は、いつも「自社の内側から見た、外の景色」になります。

図4:環境は内から見た外|同じ市場でも各社のレンズで見え方が変わる

ここから、もう一歩進んだ発想が出てきます。ワイクは 「環境は自分で作る」 と言いました(専門用語でイナクトメントと呼びます)。自社の内側から見ている環境なのだから、受け身で合わせるのではなく、自分にとって意味のある環境を、自分から選び取り、作り出していける。環境という資源は外にあるのではなく、実は自分の側にある、という考え方です。

環境への向き合い方は、大きく二つに分かれます。環境が先にあり、それに適応していく(流行を追う)という古い見方(環境決定論)と、自社から見た外を徹底し、自分の環境を自分で作るという新しい見方(主体的選択論=イナクトメント)です。

流行に流されると、どうなるか。記憶に新しい実例があります。コロナ禍の少し前から、1本1,000円を超える高級食パンの専門店が空前のブームになり、全国で似たような店の出店が相次ぎました。ところが、ブームは数年でしぼみます。2022年にはブームを牽引した有名チェーンの大量閉店が報じられ、帝国データバンクの調査でも、高級食パンブームの終焉はパン店の経営を圧迫した背景の一つに挙げられています(※5)。「売れているから」という理由だけでブームという環境に乗った店には、ブームが去ったとき、お客がその店を選び続ける理由が残りません。環境に適応したつもりが、環境に振り回されて終わる。環境決定論の怖さです。

反対に、環境を自分で作るとは、こういうことです。こちらは架空の例ですが、老舗の蕎麦屋を考えてみましょう。町にラーメン店が次々と増え、行列もできている。それでも「うちは蕎麦の技で生きる店だ」と腹を決め、石臼挽きの粉や産地とのつながりに投資を続け、「蕎麦といえばあの店」という評判を自分でつくっていく。流行(環境)に合わせるのではなく、自社の強みを軸に 「自分のための市場」を自分で育てていく。これがイナクトメントです。各社がそれぞれ「自分のための市場」をつくり合った結果が、ひとつの「業界」になっていく、とも言えます。

ワイクの著書『センスメーキング イン オーガニゼーションズ』の冒頭には、靴の市場を見た二人の話が出てきます。同じ「人々が裸足で歩いている光景」を見て、一人は『これは靴の巨大な潜在需要だ』と読み、もう一人は『これは需要ゼロの未開の地だ』と読みました。同じ現実を見ても、そこに何を見て取るかは、見る側で決まる のです(※4)。事業機会は、外に転がっているのではなく、見る側の解釈の中にあります。

ワイクが好んで引いた経営思想家メアリー・パーカー・フォレットの言葉も示唆に富みます。『私たちは環境の主人でも奴隷でもない。木を剪定し、接ぎ木し、肥料をやる。そういう手入れを重ねるうちに、その木は次第に林檎の実る木になっていく』。環境は、与えられるものではなく、手をかけて育て・作っていくものだということです。

ここで本記事の核心につながります。自社を何屋と定義するか(ドメイン)とは、外の環境に合わせる作業ではなく、自分にとって意味のある環境を宣言し、作り出す営み です。創発戦略も、ただ流れに身を任せることではありません。自分が作った環境の中で起きる思いがけない発見を拾い上げ、後から振り返って「意味のある一手」に育てていくことなのです。


「うちは何屋か」を定義し直す|ドメインという考え方

ここで本記事の核心、ドメインに入ります。ドメインとは、ひとことで言えば 「自社の活動領域は何であり、どんな価値観で、どこへ向かうのか」 を表したものです。組織と戦略をつなぐ、要の概念です。

鉄道会社はなぜ衰退したのか

図5:ドメインの再定義|鉄道業から輸送業へ(物理的定義から機能的定義へ)

古典的な例があります。かつてアメリカの鉄道会社は次々と衰退しました。理由は、自分たちを「我が社は鉄道業だ」と定義していたから、と言われます。もし「我が社は輸送業だ」と定義し直していれば、トラックや航空など別の打ち手が見えていたはずです。

つまりドメインは、現場の創造性を引き出す装置 です。日本の経営学では、ドメインの意義が次のように論じられてきました。

  • 戦略を決めるうえで「一番最初の、一番重要な問いかけ」である
  • 自社のあるべき姿・目指す将来像を表す
  • 組織の創造性と活性化を誘発する

「うちは輸送業だ」と言われた瞬間に、社員は「鉄道以外にも、自分たちにできることがあるはずだ」と考え始めます。先ほどの創発戦略を、意味のある方向へ導くのがドメインなのです。

定義のコツ:「総合」を避け、「何をしないか」も決める

ドメインの定義には二段階あります。物理的な定義(扱うモノで定義する。例:体重計をつくる会社)と、機能的な定義(その先の価値で定義する。例:健康をつくる会社)です。

定義のコツが3つあります。

  1. 「総合◯◯」は避ける。「総合素材産業」のように広げすぎると、何をすればよいか分からなくなり力が分散します。
  2. 社内だけでなく社外にも共有する。経営者の定義と、社員の理解、そして取引先や顧客の認識が重なるほど、ドメインは浸透します(ドメイン・コンセンサス)。これが社内外での「うちはこういう会社だ」というアイデンティティになります。
  3. 「何をしないか」が決まる。活動領域を定めると、その裏返しとして「やらないこと」「つながらない相手」も明確になります。これがドメインの大きな効果です。

ケーススタディ|ミツカン「お酢を超える調味料作戦」

事業の再定義を象徴するのが、ミツカン(愛知県半田市・1804年創業の食酢メーカー)の歴史です。

戦後しばらく、ミツカンは「食酢のトップメーカー」でした。同社には二つの原点となる理念があったといいます。ひとつは「買う身になって まごころこめて よい品を」。もうひとつが 「脚下照顧に基づく現状否認の実行」 です。脚下照顧とは足元をよく見ること。ただし足元を固めて満足するのではなく、あえて現状を否認し、前へ進める。変革と挑戦の理念でした。

品質保証のための瓶詰め(純正食品運動)やアメリカ進出など先進的な手を打ちながらも、当時の経営者は「食酢メーカーであることに変わりがない=現状否認ができていない」と悩み続けたといいます。食酢メーカーである限り、会社の発想は食酢の枠を超えられなかったからです。

そこで打ち出されたのが 「超酢作戦」(お酢を超える調味料づくり) という方向づけ。まさにドメインの再定義です。「我が社は食酢の会社であり続けるが、それだけではない。より豊かな食文化をつくるために、お酢に限らず多様な商品を生み出していく」と社内外に宣言しました。

同時に「チャレンジ1000&73計画」(国内売上1000億円のうち、お酢以外の開発品の比重を7割に)という数値計画も立てます。ここで大切なのは数字そのものではありません。この計画は「超酢作戦」という構想(ドメイン)を形にしたものであり、比率が何対何になったかより、構想が社員の創造性を引き出し続けたこと に意味がありました。味ぽんをはじめ数々のヒット商品が生まれ、ミツカンはお酢の会社から総合食品メーカーへと育っていったのです(※2)。

事業が広がって成熟すると、8代目はドメインを再定義します。それが 「やがて、いのちに変わるもの。」。食を通じた健康という、より大きな価値(機能的な定義)への進化で、これを「第3の創業」と位置づけました。スーパーで味ぽんのラベルを見ると、今もこの言葉が記されています。

ドメインは「言葉」にすると変わるきっかけになる

ドメインの再定義は、ミツカンだけの話ではありません。

  • タニタ は「体重計をつくる会社」から「健康をつくる会社」へ定義を広げ、社員食堂から生まれたタニタ食堂という新事業に育てました。
  • 星野リゾート は「リゾート運営の達人」から「ホスピタリティ・イノベーター」へ。全社のドメインのもとで、リゾートごとに「コンセプト」(事業ごとのドメイン)を必ず決めるそうです。
  • トヨタ は、社長が「もっといいクルマをつくろう(Fun to Drive, AGAIN)」という方向づけを掲げ、細かな計画ではなくドメインで会社を動かしたと語っています。

ドメインを変えるきっかけは、おおむね 事業承継・経営危機・先手を打つ判断 の3つに整理できます。北海道テレビ放送(HTB)は経営危機のなかで「うちはテレビ局ではない、あらゆるメディアを手がける地域メディアだ」とドメインを再定義し、立て直した例として知られます(※3)。


経営者がやるべき3ステップ

ステップ1|自社のドメインを「言葉」にする

まず、「うちは何屋か」を一文で言い切ってみることです。活動領域だけでなく「どんな価値観で、どこへ向かうのか」まで含めること。「うちは◯◯屋です」で止まらず、「◯◯を通じて、お客様の△△を実現する会社です」と言えるかを試してください。「総合◯◯」のような広げすぎた言葉は避けます。

一文ができたら、社員10人に「うちは何屋だと思う?」と聞いてみてください。答えがバラバラなら、ドメインはまだ言葉になっていない証拠 です。経営の現場でも、経営者と社員で答えがまるで違う会社は珍しくありません。言葉になって初めて、社員はそれを共有し、自分で考え始めます。

ステップ2|計画を「構想」に開く

精密な数値計画は持ちつつ、絶対視しないこと。「この計画は外れる前提で、外れたときにどちらの方向(ドメイン)へ修正するか」という大枠を共有します。たとえば計画書の最後に1ページ加えて、「今は持っていないが、これから蓄積したい強み」と「計画が外れたときに守る方向」を書き足しておく。それだけで、計画は構想に近づきます。

ステップ3|現場の「思いがけない発見」を拾う仕組みをつくる

創発戦略は現場から生まれます。お客様からの一言、現場の小さな工夫を、経営者が拾い上げて事業に育てる。月に一度の会議で「お客様に言われて意外だったこと」をひとつずつ出し合う。小さな試作の予算枠をあらかじめ取っておく。失敗の報告を責めない。そうした場づくりが、構想を実りあるものにします。

同じことを、ドラッカーは『イノベーションと企業家精神』で正面から論じています。イノベーションの機会の第一に挙げられているのが 「予期せぬ成功と予期せぬ失敗」 です。とくに予期せぬ成功は、これほどリスクが小さく確実な機会はないのに、ほとんどの組織で無視される。だからこそ、予期せぬ成功が必ず目に留まる仕組みをつくれ、とドラッカーは説きました(※6)。現場の思いがけない発見を拾う場づくりは、この助言の実践でもあります。

図6:中小企業の3ステップ|言葉にする→構想に開く→創発を拾う


まとめ|計画より構想、そして自社を定義し直す勇気

最後に、本記事の要点を整理します。

「うちは何屋なのか」。この問いに、活動領域と価値観と向かう先まで含めて答えられたとき、会社は値下げ競争の外に出る最初の一歩を踏み出しています。

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FAQ

Q1. 事業計画は、もう立てなくてよいのですか?

いいえ、計画は立ててください。問題は計画そのものではなく、計画を絶対視して、外れたときに動けなくなること です。計画は持ちつつ、「外れたらどちらの方向(ドメイン)へ修正するか」という構想をセットで持っておくのがおすすめです。『戦略サファリ』も、計画的戦略と創発戦略の両方が必要だと述べています。

Q2. 「創発戦略」と「行き当たりばったり」は何が違うのですか?

大きく違います。『戦略サファリ』によれば、創発戦略とは、日々の行動が積み重なり、あとから振り返ると一貫したパターンになっている ものです。場当たりな対応がその場限りで消えるのに対し、創発戦略には学習があります。うまくいった工夫を「うちのやり方」として残し、次につなげていくのです。現実の会社では、傘を広げるように大きな方向(本記事でいうドメイン)だけを決めて細部は現場に委ねる形も多く、方向と学習の両方があるからこそ、思いがけない発見が「会社にとって意味のある一手」になります。

Q3. 「ドメイン」と「経営理念」「パーパス」は違うのですか?

呼び方の違いにこだわる必要はありません。「自社の活動領域と、価値観と、向かう先」を言い表しているか が判断基準です。これを満たしていれば、理念と呼んでもパーパスと呼んでもドメインです。第4回で扱った経営理念と地続きの話だと考えてください。

Q4. 「総合◯◯業」と名乗ってはいけないのですか?

絶対に駄目というわけではありません。ただ、領域を広げすぎる言葉は「何をすればよいか分からない」状態を生みやすく、力が分散します。まずは自社が本当に蓄積したい強みが伝わる、具体的な定義をおすすめします。

Q5. 小さな会社でも、多角化を目指すべきですか?

必ずしもそうではありません。「多角化しないと生き残れない」というのは特定の時代・大企業向けの議論で、鵜呑みは禁物です。ひとつの事業を深めて長く続く会社も数多くあります。大切なのは多角化そのものより、自社を何屋と定義し直すか で見える打ち手が変わることです。

Q6. 創発戦略を「狙って」起こすことはできますか?

ピンポイントで狙うのは難しいですが、起こりやすくすることはできます。現場の発見を拾う場をつくり、小さな試作や失敗を許す。そのうえで明確なドメイン(構想)を共有しておけば、現場の工夫が会社の方向に沿った「意味のある発見」になりやすくなります。


次回予告|第7回 組織文化(社風)の作り方・変え方

ドメインを言葉にしても、それが社員の体に染み込まなければ会社は動きません。次回は 組織文化(社風) がテーマです。社風という目に見えないものを、目に見えるかたち(言葉・象徴・習慣)で育て・変えていく方法を、組織文化研究(シャイン、ハッチ)と老舗企業の事例とともにお届けします。連載はいったんこの第7回で区切りとなります。


参考文献・出典

※1 ヘンリー・ミンツバーグ/ブルース・アルストランド/ジョセフ・ランペル 著、齋藤 嘉則 監訳『戦略サファリ[第2版]── 戦略マネジメント・コンプリート・ガイドブック』東洋経済新報社, 2013年(原著 Strategy Safari, 2nd ed., 2009)

※2 加藤 敬太(2014)「ファミリービジネスにおける企業家活動のダイナミズム──ミツカングループにおける7代当主と8代当主の企業家継承と戦略創造──」『組織科学』47巻3号, pp.29-39(J-STAGE フリー全文公開/DOI: 10.11207/soshikikagaku.47.3_29)

※3 加藤 敬太・笹本 香菜(2016)「北海道テレビ放送におけるドメイン戦略──地方テレビ局から地域メディアへの転換とドメイン・コンセンサス──」『經濟論叢』(京都大学)190巻3号, pp.19-38(京都大学学術情報リポジトリ KURENAI で全文公開)

※4 カール・E・ワイク 著、遠田 雄志・西本 直人 訳『センスメーキング イン オーガニゼーションズ』文眞堂, 2001年(原著 Karl E. Weick, Sensemaking in Organizations, 1995。裸足の人々と靴の潜在需要のたとえ、メアリー・パーカー・フォレットの引用ほか)

※5 帝国データバンク「「パン屋」の倒産動向(2025年1-10月)」(2025年11月29日)/ビジネスジャーナル「高級食パンブーム、急失速の残念な事情…大量閉店「乃が美」の巻き返しは可能?」(2022年9月5日)

※6 ピーター・F・ドラッカー 著、上田 惇生 訳『イノベーションと企業家精神』(ドラッカー名著集5)ダイヤモンド社, 2007年(原著 Innovation and Entrepreneurship, 1985。予期せぬ成功と予期せぬ失敗をイノベーションの機会の第一とする議論)

  • メアリー・ジョー・ハッチ 著、日野 健太・宇田 理 監訳、加藤 敬太ほか 訳『組織論のエッセンス』同文舘出版(原著 Mary Jo Hatch, Organizations: A Very Short Introduction, 2011。センスメーキング・イナクトメント・環境概念の整理に参照)

※ ミツカン・タニタ・星野リゾート・トヨタ・北海道テレビ(HTB)の各事例は各社の公開情報に基づく。

新聞・報道記事

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